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キルケゴールが良くなかったかなとAクンは思う。バーで彼女と並んでいた時、まず口にしたのは高校時代に倫社の授業で耳にした思想家の名前であった。別にうんちくをたれたわけではなかったが、咄瑳にその話題が出てしまった。その結果、展開にギクシャクしたものを張りつかせてしまった。キルケゴールからセックスまでははてしなく遠い。黄金の国ジパングを求め、インド洋をさすらうマルコポーロのようなものだ。せめて安芸ノ島の話題から入っていれば、裸を連想させるスポーツであることだし、はるかに容易に速やかに、目指すそこに辿り着けたであろうことは想像にかたくない。「俺って、勇気がないなあ」シメの甘さを嘆くAクンだが、自己の内面を見つめる能力に乏しい彼に代わり、われわれがその敗因を分析することにしよう。準備万端整ったそのステージで、「ホテルに行こう」ノーブレスですむこのひと言をこばむもの、それが男の気取り、である。俺は下心なんか全然無いんだよ。俺って紳士だから今誘えばOKなのは分かってるんだけど、あえて誘わないんだよ。そういった偽善に酔う気持ちが、Aクンの胸にはたして無かったか。余裕のポーズ、というええ恰好に溺れていなかっただろうか。勇気を出すことにより、こういった気取りを捨てることが先決ではないのか。それなくして恋愛の入り口を開ける鍵は手に入らない。

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